こんにちは。居宅介護支援事業所で一人ケアマネをしているヒトケア(@hito_care)です。
実務に従事しながらのケアマネ更新研修がしんどいです。
介護支援専門員の法定研修(以下、「ケアマネ法定研修」といいます。)に対する、現役ケアマネからの不満の声が絶えません。
とりわけ更新研修に関しては、高額な受講費や研修時間の長さなどから受講者の負担が大きく、廃止を求める声が高まっています。
一方で、これらの声は国に届くことはなく、平成28年には研修時間の延長や主任ケアマネの更新性が導入され、法定研修におけるケアマネの負担はさらに過重なものとなりました。
しかし、今、その状況が変わりつつあります。
2024年4月26日、東京都は「介護支援専門研修に関する緊急提言」を発表し、
「研修制度の見直しは喫緊の課題である」
と、声明を出したのです。
東京都が緊急提言を出すほど、ケアマネ法定研修には深刻な問題が存在するのですね。
私は2011~2023年の間に、7回の法定研修を受講しました。
その経験から感じた、ケアマネ法定研修の問題点は以下の三つです。
今回の記事では、これらの問題点を詳しく解説したうえで、ケアマネの質を担保しながら負担を軽減する提言をします。
この記事を通じて、ケアマネ法定研修のあるべき姿について一緒に考えてみましょう。
ケアマネの人材不足に関しては、以下の記事で原因と対策を解説しています。
【ケアマネ法定研修の3つ問題点】
なぜケアマネ法定研修は、現役ケアマネからの不満の声が絶えないのでしょうか?
ここでは、ケアマネ法定研修が抱える問題点を以下の3つに分けて解説します。
問題点①:長時間の研修受講
最初に取り上げるケアマネ法定研修の問題点は、長時間の研修受講です。
介護支援専門員の研修時間
まずは介護支援専門員の資格及び研修の体系を確認してみましょう。
複雑すぎる…。
ケアマネ試験に合格後に実務に従事した場合、どれだけの研修を受けるのか教えてください。
①ケアマネ試験(介護支援専門員実務受講試験)合格後、実務研修(87時間)を受講します。
②ケアマネの実務について6か月以上の人は、専門研修Ⅰ(56時間)を受講します。
③専門研修Ⅰの修了者で就業後3年以上の人は、専門研修Ⅱ(32時間)を受講します。
上記のとおり、ケアマネ試験に合格後、約5年間で3回の研修を受ける必要があり、これらの研修の合計時間は175時間に達します。
④さらに、更新2回目以降もケアマネ資格の有効期間(5年間)の間に、32時間の専門研修Ⅱを受け続ける必要があります。
国はケアマネにどれだけの研修をさせれば気が済むのですか…。
主任介護支援専門員の研修時間
ケアマネ法定研修は、これだけにとどまりません。
この研修制度をさらに複雑かつ過重なものにしているのが、主任介護支援専門員(主任ケアマネ)の研修制度です。
介護支援専門員が、主任介護支援専門員の資格を取得するためには、前述の研修とは別に70時間に及ぶ研修を受講する必要があります。
さらに平成28年(2016年)には、主任介護支援専門員の更新制度が設けられ、主任介護支援専門員の有効期間(5年間)の間に、46時間の更新研修を受講しなければなりません。
主任ケアマネであるヒトケアさんは、今までどれだけの法定研修を受けてきたのですか?
私は2011~2023年の12年間で7回の研修を受講しました。
全ての研修の合計時間は279時間になります。
主任介護支援専門員は毎年度の法定外研修に受講する必要がある
さらに主任ケアマネの更新研修を受講するためには、地域包括支援センターや職能団体等が開催する法定外研修等にも定期的に受講する必要があります。
たとえば、東京都の場合、主任介護支援専門員更新研修を受講するには、毎年度4回以上の法定外研修等に受講する必要があります。
主任ケアマネの有効期間の間に、法定外研修の受講が3回以下になった年度があった場合、その後の年度でどれだけ法定外研修に受講しても、主任介護支援専門員更新研修は受講できません。
長時間の研修受講が招くケアマネへの悪影響
長時間の研修受講は、ケアマネは次のような悪影響を及ぼします。
- 業務への支障
法定研修は終日にわたり行われることから、研修当日は利用者、家族、関係者との連絡がタイムリーに取れず、業務に支障をきたします。
また、ケアマネが行う一ヶ月の業務は決まっているため、研修によって丸一日業務ができなくなると、1ヶ月のスケジュールがよりタイトになります。
その結果、営業時間内に一ヶ月の業務を終えることが困難になり、残業や休日出勤等の時間外労働が避けられなくなります。 - 疲労とストレスの増大
長時間にわたる研修に加えて、通常の業務をこなすことはケアマネに過度の疲労とストレスをもたらします。
このような状況は、心身の健康を害するリスクを高め、仕事の質だけでなく、生活の質にも悪影響を与える恐れがあります。 - 人材確保の支障
受講者であるケアマネに過度な負担を強いる法定研修は、ケアマネの新たな人材確保の支障となる恐れがあります。
「ケアマネとして働きたいけれど、これだけの研修を継続的に受けるのであればやりたいくない」
と、考える方は少なくないでしょう。
さらに、結婚や出産等で一時的にケアマネを離れた人は、再び長時間の研修を受けなければならないという状況もケアマネへの復職における障壁となっています。
問題点②:重複する研修内容
ケアマネ法定研修においては、重複する研修内容が散見されています。
以下は、東京都による介護支援専門員研修に関する緊急提言で示された、複数の研修での科目の重複及び科目間での内容の重複に関する一覧表です。
【複数の研修での科目の重複(例)】
科目名 | 実務 | 専門Ⅰ | 専門Ⅱ | 主任 | 主任更新 |
---|---|---|---|---|---|
対人個別援助技術(ソーシャルケースワーク)及び地域援助技術(コミュニティソーシャルワーク) | – | ○ | – | ○ | – |
ケアマネジメントの実践における倫理 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
リハビリテーション及び福祉用具等の活用に関する理解 | – | ○ | ○ | – | ○ |
生活の継続を支えるための医療との連携及び多職種協働の実践 | ○ | ○ | – | ○ | – |
生活の継続及び家族等を支える基本的なケアマネジメント | ○ | ○ | ○ | – | ○ |
脳血管疾患のある方のケアマネジメント | ○ | ○ | ○ | – | ○ |
認知症のある方及び家族等を支えるケアマネジメント | ○ | ○ | ○ | – | ○ |
大腿骨頸部骨折のある方のケアマネジメント | ○ | ○ | ○ | – | ○ |
心疾患のある方のケアマネジメント | ○ | ○ | ○ | – | ○ |
誤嚥性肺炎の予防のケアマネジメント | ○ | ○ | ○ | – | ○ |
看取り等における看護サービスの活用に関する事例 | ○ | ○ | ○ | – | ○ |
家族への支援の視点や社会資源の活用に向けた関係機関との連携が必要な事例のケアマネジメント | ○ | ○ | ○ | – | ○ |
【科目間での内容の重複(例)】
科目 | 内容 |
---|---|
介護保険制度及び地域包括ケアシステムの現状 | ヤングケアラー |
家族への支援の視点や社会資源の活用に向けた関係機関との連携が必要な事例のケアマネジメント | |
ケアマネジメントにおける実践の振り返り及び課題の設定 | 権利擁護 |
ケアマネジメントの実践における倫理 | |
認知症のある方及び家族等を支えるケアマネジメント | |
介護保険制度及び地域包括ケアシステムの現状 | 社会資源 |
看取り等における看護サービスの活用に関する事例 | |
家族への支援の視点や社会資源の活用に向けた関係機関との連携が必要な事例のケアマネジメント | |
介護保険制度及び地域包括ケアシステムの現状 | 地域ケア会議 |
対人個別援助技術(ソーシャルケースワーク)及び地域援助技術(コミュニティソーシャルワーク) | |
生活の継続を支えるための医療との連携及び多職種協働の実践 | |
生活の継続及び家族等を支える基本的なケアマネジメント |
法定研修において、研修内容の重複は、研修の時間と労力が無駄に感じられる原因となり、モチベーションの低下を招きます。
さらに、研修プログラムが現場のニーズに応じて更新されず、過去の知識を反復しているため、新しい情報や技術の習得が阻害されることがあります。
国は介護現場の生産性向上を強く求めていますが、それを支援するための研修科目が提供されていないことも問題です。
国は、「生産性向上=ケアプランデータ連携システムの活用」とでも思っているのでしょうか?
ケアプランデータ連携システム意外にも、実務に役立つICTツールが多数存在するのに…。
問題点③:高額な受講料
ケアマネ法定研修の問題点として最後に挙げるのが、高額な受講料です。
ケアマネ法定研修の受講料一覧(※東京都の場合)
東京都を例に、ケアマネ法定研修の受講料を見てみましょう。
研修の種類 | 受講料 | 研修時間 | 実施機関 |
---|---|---|---|
実務研修 | ¥44,600 | 87時間 | 公益財団法人東京都福祉保健財団 |
専門研修Ⅰ | ¥34,500 | 56時間 | 公益財団法人東京都福祉保健財団 |
専門研修Ⅱ | ¥23,800 | 32時間 | 公益財団法人総合健康推進財団 |
主任研修 | ¥52,600 | 70時間 | 特定非営利活動法人 東京都介護支援専門員研究協議会 |
主任更新研修 | ¥38,000 | 46時間 | 特定非営利活動法人 東京都介護支援専門員研究協議会 |
合計 | ¥193,500 | 291時間 |
資格を維持するために、これだけのお金が掛かる資格が他にあるでしょうか?
都道府県によってことなる受講料
ケアマネ法定研修の受講料は、都道府県によって異なります。
厚生労働省が公表した令和4年度介護支援専門員の法定研修受講者負担の資料を見ると、都道府県によって受講料に大きな格差がありことが分かります。
たとえば実務研修の場合、最も高額な都道府県である岩手県の研修費用は89,000円、一方で最も安価な長野県では29,520円となっています。この二つの都道府県間での研修費用の差額は59,480円にも上ります。
都道府県 | 料金 |
---|---|
岩手県 | 89,000円 |
長野県 | 29,520円 |
差額 | 59,480円 |
岩手県の受講者の方からすると、とても受入れられる金額の差ではないですね。
オンライン化以降も高くなる受講料
ケアマネジャーの法定研修が新型コロナウイルスの流行をきっかけにオンライン化が進みました。
一般的にオンライン研修は、会場のレンタル費用や講師の交通費などが削減されるため、運営コストが抑えられるはずです。
しかし、法定研修のオンライン化以降も受講料は下がらないどころか、2022年度は2021年度に比べて、受講料が全国平均で高くなっています。
この不透明な運営費用も、受講者であるケアマネからの不満や不信感を引き起こしています。
受講料の助成事業は是が非か
一部の自治体では、受講料の負担軽減策として、受講料を補助する独自事業が行われています。
受講者の中では、受講料を自費で払われている方も多いことから、当該事業が受講者の負担軽減につながることは間違いありません。
一方で単に公的資金を使って補助を行うだけでは、高額な受講料の問題への根本的な解決には至りません。
受講者に対する受講料の負担軽減を図るのであれば、公的資金を使って負担軽減を図るのではなく、不当とも思える高額な受講料そのものを見直すべきではないでしょうか?
【ケアマネ法定研修への提言】
ケアマネ法定研修が抱える問題点は理解できました。
では、この先どうすればケアマネ法定研修は良くなるのでしょうか?
ケアマネ法定研修への提言は、以下のとおりです。
提言①:更新研修の廃止
1つ目の提言は「更新研修の廃止」です。
私が更新研修を廃止すべきと考える理由は、以下の2つがあります。
現役ケアマネの負担軽減
更新研修の廃止は、ケアマネにとって直接的な負担の軽減につながります。
現状、ケアマネは定期的な更新研修を受け続ける必要があり、その度に膨大な時間と労力、そして高額な受講料が費やされています。
それにもかかわらず、研修内容の重複や実務に即していないカリキュラムが多いため、これらの研修がケアマネの資質や専門性の向上に寄与しているか疑問が残ります。
このように多くの問題を抱えている更新研修を廃止することで、ケアマネはより実務に集中でき、自身のスキルアップに必要な研修に費やす時間が生まれます。
ケアマネの人材確保
更新研修を廃止することで、ケアマネの安定的な人材確保も期待できます。
現役ケアマネにとっては、更新研修の負担による離職を防ぎ、長期的にキャリアを持続できる環境を作ることができます。
また、一度ケアマネの現場を離れた人にとっては、更新研修の義務がなくなることで、復職の障壁が解消されます。
今後、介護サービスの需要が拡大する中、ケアマネの人材確保がより一層求められる状況です。
更新研修の廃止は、ケアマネの人材不足を解消する可能性を秘めています。
提言②:「共同研修加算」の創設
更新研修が廃止された場合、ケアマネの質を担保するための代替策も必要となるでしょう。
そこで、2つ目の提言として、地域の居宅介護支援同士で学びを継続するための「共同研修加算」を提案します。
「共同研修加算」とはどのような内容ですか?
「共同研修加算」は、特定事業所加算の算定要件の一つである、
「他の法人が運営する指定居宅介護支援事業者と共同で事例検討会、研修会等を実施」
を算定要件とします。
この加算の創設により、孤立しがちな小規模の居宅介護支援事業所も学びとともに、地域のネットワークを強化する契機にもなるでしょう。
【まとめ】ケアマネの人材確保には法定研修の見直しが不可欠
今回は介護支援専門員の法定研修(ケアマネ法定研修)が抱える問題点と提言についてお伝えしました。
現行のケアマネ法定研修制度には多くの問題が存在しており、それらが実務に従事するケアマネの業務を圧迫し、モチベーションの低下も引き起こしています。
ケアマネの安定的な人材確保のためには、更新研修は廃止は避けて通れません。それにより、現役ケアマネの負担軽減を図るとともに、一度現場を離れたケアマネも復職しやすい環境を整えるべきです。
更新研修廃止後もケアマネの質を担保するための取り組みが必要です。そこで、地域のケアマネ同士で学び合うための仕組みを作れば、高額な受講料を負担することなく、地域の実情に応じた実践的な学びが得られるでしょう。
今回の記事がケアマネ法定研修のあり方を見直す一助となれば幸いです。
当サイトからダウンロードできる各種テンプレートは、以下の記事にて紹介しています。
コメント